ついに裁判?!家賃滞納で行う裁判の種類とその効果【前編】
2016/06/15
法的な助言は弁護士だけでなく司法書士にも相談できることがわかりました。
できるだけ話し合いで解決したいですが、誠意ある対応が得られなければ、やむを得ず裁判を行うことになります。
家賃の滞納トラブルではどんな法的手続きができるのか、そしてどんな効果が期待できるのか考えてみます。
当エントリーは長くなってしまったため、前・後編に分けています。
ご面倒ですが、後編と合わせてご覧いただけましたら幸いです。
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Contents
うじうじ悩んでる間に裁判しよう
家賃の支払いもない、話し合いにもならない、どうにもならない!
そのまま放置していても、家賃を払ってくれるとも思えませんし、退去してくれるとも思えませんよね?
解決するためには裁判をすることになります。
そんな大げさなことにはしたくないよ…。
払うって言ってるし、きっといつか完済してくれるよ…。
裁判所とかこわいし…めんどくさい(本音w)。
という大家さんのやさしい気持ちもわかりますが、そういいつつズルズルと時間だけが過ぎて滞納額が何年分にも積もってしまっては、賃貸経営者としては失格です。
家賃滞納にかかる裁判は争点が明確ですから、世に数多ある紛争に比べると比較的短時間で結審します。
そしてどう考えても悪いのは家賃を払わない入居者ですから、まず負けない裁判です。
裁判で判決をもらうことができれば強制執行の手続きに進めますから、銀行口座や給料を差し押さえて家賃の回収をしたり、荷物を部屋から運び出して強制的に退去完了させることができるようになります。
さっさと着手してさっさと済ませちゃいましょう!
裁判でなにを求めるのかをもう一度確認しよう
家賃の滞納が原因の裁判で、相手方に請求することになるのは以下の2点です。
2.建物からの立ち退き・明け渡し |
賃貸借契約に基づいた家賃などの支払いを滞納した場合、大家さんはその支払いを求めることになります。
当たり前ですねw
そして、家賃を払っていないというのは重大な契約違反ですから、債務不履行で賃貸借契約の解約を行うことが可能です。
賃貸借契約が解約された以上、その部屋に住む権利がなくなったのに住み続けるというのは不法占拠ですから、建物の明け渡しを求めていくことになります。
ただし、1回家賃の支払いが遅れた、1ヶ月滞納した、くらいでは賃貸借契約の解除は認められない場合がほとんどです。
賃貸借契約は長期間にわたって継続的に結ばれるもので、大家さんと入居者間の信頼関係を基礎とする契約とされています。そして、その当事者間の信頼関係が破壊されたことが認められなければ、解除することができないというルールになっています(信頼関係破壊の法理)。
1回や1ヶ月では、信頼関係は崩壊しないでしょ?
そんなんじゃさすがに解除まではダメダメ。
入居者明日から路頭に迷っちゃうじゃん。
ということですね。
滞納以外にも特別なトラブルを抱えている、などの事情がない限り、短期間では認められにくいです。
明確な規定はないようですが、
② 相当の期限を定めて滞納家賃の催告をしている ③ 定めた期間内に支払いがない |
などの要件があると、信頼関係が破壊されていると認められるようです。
賃貸借契約書に「催告なしに即時解除できる」と記載されている場合も多いですが、実際に裁判になったときにはあくまでも「信頼関係が破壊」されているかどうかが焦点になりますので、条文は無効になる場合がほとんどです。
裁判を行うために必要な費用など
弁護士や司法書士に支払う報酬とは別に、裁判を行うための経費が掛かります。
予納郵券(内容証明郵便などの切手代) 裁判資料のための費用(必要に応じて建物登記簿謄本・固定資産評価証明など) |
裁判を行うこと自体には、そこまで大きな費用はかかりませんね。
家賃の滞納と明け渡しにかかる裁判は請求額が比較的少ないことが多いので、回収できたとしても弁護士費用が賄えないこともあります。
任意退去してもらえない、弁護士に頼む費用が捻出できない、どうしたらいいのかわからなくて時間が過ぎ滞納額だけが増していく…。
本人訴訟」というのも、ひとつの手かもしれません。
そんなことになるくらいなら「家賃滞納の訴訟は、キチンと順を追って督促を行って必要な手続きを踏んでいれば、よっぽど大家さんに非がない限りは基本的には勝てる裁判です。
本人訴訟をサポートしてくれる管理会社もあるみたいです(非常に稀だと思いますがw)。
管理会社自体が動くことは、非弁行為になってしまいますのでできません。
あくまで大家さんが自力で行うことが大前提です。
*裁判は自分でできる?!大家さんのための本人訴訟の手引き
法的手続きの種類
家賃滞納のトラブルを解決する法的手続きの方法はいくつかあります。
2.民事調停 3.支払督促 |
滞納になっている金額や、手続きの簡便さ、請求する内容によって使い分けることができます。
「3支払督促」や「1-2少額訴訟」では、支払いの請求ができますが、建物の明け渡しの請求はできません。
「2民事調停」や「1-1通常訴訟」なら、どちらの請求も可能です。
裁判所からの督促で滞納が解消されて、その後トラブルなく住んでもらえるなら「支払督促」でいいと思いますし、話し合いで円満解決が見込めるなら「民事調停」でいいと思いますが、話もできない入居者とは信頼関係が継続できない、という場合なら「通常訴訟」を提起したほうが早いでしょう。
さまざまな方法がありますが、大家さんが家賃滞納で困って法的結審を望むような案件の多くは、通常訴訟で行います。
なぜなら、話し合いで解決できるような相手なら最初から「民事調停」にまで至りませんし、「支払督促」や「少額訴訟」では退去させることができません。
そして、どんな方法で開始したとしても相手からの異議申し立てなどがあれば、結局は「通常裁判」に移行することになるからです。
最終的には通常訴訟を行うことになるとしても、それ以外の簡易な方法で解決できる可能性が高いならその方がいいと思います。
それぞれの訴訟方法にどのような特徴があるのか、確認してみます。
支払督促 ~ 家賃の回収だけできればいい場合
裁判に至るほどの滞納が発生している場合多くの大家さんは困っていて「もう出て行ってほしい、別の入居者を探したい」と思っているケースが多いのではないでしょうか?
でも中には「家賃さえ払ってくれるなら、このまま住んでもらっててもいいよ」という菩薩のような大家さんもいらっしゃるかもしれません。
そういう方は賃貸借契約の解除をする必要はないですよね。
部屋の明け渡し(退去)を求めずに、滞納家賃の清算だけしてもらいたいという場合には「支払督促」という簡易裁判所の手続きを行うことがあります。
手続きを行うと大家さんの申立てに基づいて、裁判所書記官がその内容を審査し、相手方の言い分を聞かないで金銭の支払いを命じる「支払督促」を行ってくれます。
入居者が滞納家賃の支払いも異議申し立てをしなければ、この支払督促は判決と同様の効力を持つことになり、「仮執行宣言」の申立てを経て、強制執行ができるようになります。
異議申立てをされると、通常訴訟に移行します。
*参考:簡易裁判所の「支払督促」手続をご存じですか?(政府広報オンライン)
裁判所に出向く必要もなく、書類審査のみで行われる手続きで裁判所に払う手数料も半分ですむ、いちばん簡便な方法です。
裁判所からの督促状が届いて、びっくりして払ってくれれば無事滞納も解消ですね。
無視されつづけた場合でも、仮執行宣言を申し立てれば強制執行が可能になりますから、給与や銀行口座の差し押さえができます。
しかし、差し押さえる財産がどこにあるかまでは裁判所は調べてくれませんので、今働いている会社やお金が入っている銀行(銀行名と支店名が必要)は大家さんが自分で調べる必要があります。
そもそも差し押さえる財産がほとんどないような場合だったら、強制執行できたとしても回収するものがありません。
裁判に勝った!という自己満足を得るのが目的ならいいですけど、本来の目的は違いますよね?
滞納家賃を回収できなければ意味がありません…。
そうなってからやっぱり出て行ってくれ!と思っても、明渡しの訴訟はまた別にしなくてはいけませんので時間がかかります。滞納額はさらに膨らんでいくことになりますので「支払督促」は、回収の見込みをよく考えて行った方がいいと思います。
少額訴訟 ~ 60万円以下の金銭の請求
訴額が60万円以下の金銭の請求のときだけに提起できる裁判の方法です。
基本的に1回の裁判で全部の主張と立証をして、その日に和解や判決を出して事件を解決させます。
1日で終わりますし、家賃滞納の場合は未納の証拠もそろっていますから、滞納で困っている大家さんの中には自分で「少額訴訟」をしてみようと思っている方も多いと思います。
しかし、少額訴訟では「支払督促」と同様に、部屋の明け渡しを求めることはできません。
支払いなさいよ、という判決が出たとしても本当に支払うお金がなければ、これも絵に描いた餅になります。
しかも少額訴訟の場合は、原告(大家さん)と被告(入居者)が、裁判所でヒザつきわせて主張を言い合いますから「こんなギスギスした関係になっちゃったけど明日からも家賃払っていい子で住んでね♪はい、仲直り♪」とはいきませんよね。笑
退去した後ならいいかもですが…。
そしてこの少額訴訟も、相手から異議が出れば通常訴訟になります。
60万円以下の裁判ですから弁護士などに頼むと経費倒れになる場合が多いですし、弁護士は少額訴訟を嫌がりますから、大家さんは自分で行うことが前提になると思います。
なむは入居者の立場で、大家さんを相手取って自分で少額訴訟を起こした経験がありますが、手続き自体は簡単です。
困ったのはちょっと緊張したことくらい。笑
なにが原因かというと、よくある敷金返還トラブルです。
常識の範囲内なら、お世話になったので少しくらいの原復費はのむつもりでしたが、あまりにヒドイいちゃもんと法外な追い金請求を受けてブチ切れました(短気w)。
もちろん、なむの全面勝訴です。
そんなつもりまったくなかったのに…。汗
一歩も譲りませんでしたので、ほぼ敷金全額取り返しました。
あれは大家さんというより、管理会社がアホすぎる。アホに管理を頼むと、まわりまわって結局大家さんが損しますよ(教訓)。
あ。
すみません、話それました…。
こんな風に相手がお金を持っていることが確実で回収の見込みが高い、しかも少額で金銭だけのトラブルの場合の少額訴訟は簡単で有効だと思うのですが、家賃滞納の場合は…どうでしょうね?
手間ヒマと心労に比べたら、得られる果実が少ない?ような気もします。
皆さま、どう思われますか?
後編へつづく
支払いの請求ができる2種類の法的手続きについてまで紹介しました。
明け渡しまで求めていく場合は、引き続き後編をご覧ください。